母・花代 作「コミュニケーション回復への道」

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母・花代が作成した資料「コミュニケーション回復への道…アスペルガー症候群の子をもつ我が家の事例」を公開します。

  • 身近な人とのコミュニケーションがうまくいかない方
  • 自閉スペクトラム症の方とコミュニケーションするに当たって実践例に興味がある方

などにおすすめです。

(注)この資料の中に出てくる「我が子」の様子は10年以上前のものです。現在は対応能力が上がり、この資料とは異なった反応をするようになっています。


コミュニケーション回復への道…アスペルガー症候群の子をもつ我が家の事例

  1. コミュニケーションを成立させる上での特性
    1. 定型発達者
    2. 発達障害者
    3. 文章による表現が有効
    4. 文章化の注意点
  2. コミュニケーションが成立しなくなる状況
    1. (1) 我が子が怒りだす、泣きだすなどして会話が中断してしまう。
    2. (2)  私が混乱し、会話が続けられなくなる。
  3. 原因
    1. (1) 助言を受け入れられない
    2. (2) 理由のわからないことには従えない
    3. (3) 言語へのこだわり
      1. 指示語の理解
      2. 「言い換え」「例え話」による混乱
    4. (4) 言語を特定の意味にしか理解できない
      1. 「授業」と「ゼミ」
      2. 「そば」と「近く」
  4. どう改善していったか
    1. 手紙による方法
  5. セルフカウンセリングを応用したコミュニケーション回復への試み(試案)
    1. セルフカウンセリングとは書くカウンセリング
    2. 実際の応用例
      1. (1) ある程度会話することができている場合
      2. 分析するときの留意点(我が家の障害特性をベースにして)
      3. (2) 会話が全く成り立たない場合
      4. (3) 特定の人との会話のみ成立している場合
    3. 期待できる効果
    4. 補足 分析するときの留意点の詳細
      1. 「もういい」「聞きたくない」「何を言っているかわからない」「頭がごちゃごちゃする」このような言葉で成立しなくなったとき
      2. 「行きたくない」「ほうっておいてほしい」「いやだ」このような意志表示があって成立しなくなったとき
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コミュニケーションを成立させる上での特性

※言葉の内容とボディランゲージが違う場合

定型発達者

  • 言語からの理解…およそ20%
  • 非言語からの理解…およそ80%
    • 声のトーン
    • 表情
    • 身振り
    • など

発達障害者

  • 言語からの理解…80%以上
  • 非言語からの理解…20%以下

言語以外で表現されることをほとんど読み取ることができず、言語表現されたことのみの理解に頼る。

文章による表現が有効

  • 非言語表現を含まないから
  • 文章化した視覚情報のほうが理解しやすい

文章化の注意点

会話をそのまま文章化することは避ける。

指示語、比喩表現などなるべく用いず、具体的な表現を心がけ、内容が直接伝わるようにする。

コミュニケーションが成立しなくなる状況

(1) 我が子が怒りだす、泣きだすなどして会話が中断してしまう。

子・やよい
子・やよい

何を言いたいのかわからない。

非難や否定をされている。

私(花代)
私(花代)

なぜ怒るのかわからない。

なるべく分かりやすく、詳しく話しているつもり なのに。

(2)  私が混乱し、会話が続けられなくなる。

私は、子との会話の最中に様々な指摘を受ける。表現のしかたや言葉の使い方について、いわゆる「重箱の隅をつつく」ような指摘である。

その言い直しをしたり、適切な表現を考えているうちに、本来の話題に戻ることができなくなってしまう。

何を話したかったのか私自身わからなくなり、会話は続けられなくなる。

子・やよい
子・やよい

何を言ってもわからない人だと思ったのでは?

話しても無駄な相手だと 思ったのでは?

私(花代)
私(花代)

どう言えばわかってもらえるのか、もうわからない。

力尽きた。話を続けるだけの気力がない。疲れた。

原因

(1) 助言を受け入れられない

「~したらどうだろう」

私(花代)
私(花代)
  • 選択肢のひとつのつもり
  • そうしてほしい
子・やよい
子・やよい
  • 喧嘩を売られている感じがする
  • 今やっていることは駄目だと強く否定されている
  • 「このようにしなさい」という強い命令に聞こえる

命令に聞こえた場合の我が子の考え

  • 命令でないとしたら理由を知りたい。理由がわかれば、Yes、Noの返事ができる。
  • 納得がいかない理由の場合はNoと言う。

「一応、聞いておく」というようにスルーすることは絶対にできない。

(2) 理由のわからないことには従えない

「~をしてほしい」「~をしたほうがよい」と言った場合、理由が必要となることが多い。

なぜ、そうしなければならないのかを知りたがる。

納得がいかないと、なぜそうしなければならないのかわからないので、従うことは無いし、また納得のいかないことをなぜ言われなければならないかわからないので混乱する。

どうしてもしてほしいことがある場合は、我が子が納得するまで理由を説明する必要がある。

面倒になって中断すると、我が子はよけいに混乱する。何のために言い出した話なのかわからなくなるから。

(3) 言語へのこだわり

指示語の理解

我が子は「それ」「あれ」「あの人」などという言葉が出てくると、今まで話した内容のどの部分が「それ」や「あれ」に当たるのか、「あの人」とは今まで会話に出てきた人のどの人のことなんだろうなどと考えているうちに話の内容がわからなくなる。

「言い換え」「例え話」による混乱

私は一度話してわからないと言われれば「今の言い方ではわからないんだな」と思って言い方を変えて説明する。それでもわからないと言われると具体的な「例え話」まで持ち出してなんとか理解させようとする。このわかってもらおうとする行為が逆効果になる。

我が子
初めの話
言い換えた話初めの話と言い方が違うが、同じ話だろうか?
例え話この話と初めの話はどういう繋がりがあるのだろう。
同じ話をしているのか、初めの話、言い換えた話、
例え話の3つの話をしているのかわからなくなる。

(4) 言語を特定の意味にしか理解できない

自分が理解している意味と違う使い方をされるとわからない。

「授業」と「ゼミ」

私(花代)
私(花代)

今日授業ある?

子・やよい
子・やよい

ないよ。

私(花代)
私(花代)

休みなんだな。

実は授業はないがゼミがあった。

もっとも必要な情報を聞き出す質問の仕方の工夫がいる。

この場合は、

  • 何時までに朝食を用意すればいいのか
  • その後大学へ行くのか

など聞くべきだった。

我が子の言語の理解は、

  • 授業…高校までの勉強
  • 講義…大学の勉強で、所属する研究室に関係なく受講する(授業とほぼ同じ)
  • ゼミ…同じ研究室の人たちが集まってする勉強会
私(花代)
私(花代)

大学で学習することは全て「授業」の範囲に入ると思っていた。

「そば」と「近く」

私(花代)
私(花代)

レンジのそばにあるから持ってきて。

子・やよい
子・やよい

なかった。

実際はレンジから50cmほど離れたところにあった。

私(花代)
私(花代)

レンジの近くにあれば、そこからの距離は問題ではないので「近く」でも「そば」でもいい。

子・やよい
子・やよい

ほとんど接してある状態が「そば」。それ以上離れると「近く」。

自分の理解している範囲になければ、すぐ近くにあっても視野に入ってこないので気付かない。

どう改善していったか

手紙による方法

  • 会話が成立しなくなったとき、とりあえず我が子の気持ちを聞く。
  • 会話を始めた理由、どう思ってほしかったか、お互いの理解の仕方の違いに気付いたことなどなるべく詳しく文章化して我が子に渡す。(1.4.「文章化の注意点」を守る)注(1)
  • 我が子は落ち着いて手紙を読めるようになったときに読み、自分の理解の仕方や感情を話してくれる。
  • それをもとに会話を振り返り、もう一度やり直す。注(2)

注(1)

相手の言動を非難するようなこと、恩きせがましい言い方は書いてはいけない。

「話をよく理解できない自分が悪いのか、自分のせいで上手くいかないのか…」などと、相手を責めているかのように受け取られ、ますます混乱させてしまう。

我が子の場合、自己評価がうまくできず、自分をダメな人間だと思い込んでいるところがあるので、そこを刺激するようなことは書かない。

注(2)

手紙によって、私の伝えたいことはおおよそ理解できているので、今度は落ち着いて、疑問点、自分の考えなど話せるようになっている。

セルフカウンセリングを応用したコミュニケーション回復への試み(試案)

セルフカウンセリングとは書くカウンセリング

日常生活のある場面を書くことから始まる。文章の上手、下手に関わらず時間の順に、自分の思ったこと、言ったこと、したことをそのまま書いていく。そして、その行動の背景に潜んでいる感情や欲求を洞察し、相手と自分の間にある感情や欲求の食い違いを考えていく。

そうすると、まず自分が何を悩んでいるのか、その悩みの奥にどのような願いがあるのかがわかってくる。相手の気持ちがわかるようになってくる。そうしていく中で自分と相手の気持ちを尊重しつつ、心を通わせていくための知恵も生まれてくる。

実際の応用例

(1) ある程度会話することができている場合

まず、日常生活の場面から特に印象に残る出来事についてのみ記録する。

・場面を取り上げたわけ、内容(記録の仕方を理解するための事例)

 例会に出席してA支援センターの支援活動の内容を知り、子どもに勧めてみたくなった。

 支援センターを利用するよう強く勧めたつもりはなかったが、最後は怒りだしてしまい、話し合いにならず、がっかりした。

流れに沿って、順序よく、子どもが言った言葉、親が言った言葉をできるだけ正確に記録する。わかる範囲で、様子、感情、欲求などを書き加える。

子ども
(1) ちょっと話があるけどいい?
・いい話なので聞いてくれるといいなと思った。
(1) 無言。
(2) 今日、例会でね、A支援センターの話が出たんだけど、いろんな事、やってるみたいだよ。ゲーム、お料理、散歩なんかもあったし…
・できるだけ楽しそうな事から話し、興味を持ってくれればいいなと思った。
(2) 私は行かないよ。
・全く興味はない、そんな話は聞きたくないといった様子
(3) うちに来て、話し相手になってくれたりもするんだって。
・ 外に出るのには抵抗があるのかと思い、訪問支援の話にしてみた。
・ 関心を示してほしいと思った。
(3) うちに来てくれるからって何なの。私は会わないよ。
・  いらいらした様子で声が大きくなった。
(4) でも、一人でずっとうちにいるより、たまには同年代の人と話するのもいいんじゃないの。
・外との繋がりを持ってほしい。
・誰かと話せば気持ちがやわらぐのではないか。
・なぜ、嫌だとしか言わないのだろう。
(4) 私は一人でいるのがいいんだからほっといて。
・大声でどなるように言うと、部屋から出ていってしまった。
・怒らせるつもりはなかったのに、こちらの話を全く聞こうとせず、怒ったまま出ていってしまった。
・いい話だと思ったのに全く関心を示さずがっかりした。
・私が言うことなど聞くつもりはないのかと悲しくなった。

子どもに怒り、悲しみ、喜びなど目立った反応があった箇所は、そのときのお互いの言葉や様子を丁寧に分析してみる。

分析するときの留意点(我が家の障害特性をベースにして)

チェック(1)  内容が相手に正しく伝わったかどうかのチェック

  • 指示語を多用していないか
  • あいまいな表現(比喩、例え話、など)はないか
  • 直接、感情や考え方が伝わるような言葉を使っているか
    • (涙が出そう→悲しい、悔しいなど)

チェック(2) その他のチェック

  • 助言、命令のような言い方をしていないか
    • 誤解している可能性がある
  • 相手が強く反応した言葉はあったか
    • その言葉を特定の意味に理解していて、こちらが思った以上の反応をしている可能性がある

これらの留意点を踏まえて、お互いの感情の食い違い、考え方の食い違いなどを考えてみる。補足情報も参照のこと。

親の(4) でも、一人でずっとうちにいるより、たまには同年代の人と話するのもいいんじゃないの。子どもの(4) 私は一人でいるのがいいんだからほっといて。
自分に対する考察
・なんとか外との繋がりをもたせようと、いきなり話を進めすぎたようだ。
・子どもが抱え込んでいるものの重さをわかってやる必要がある。
・今はまず、安心していられる場所作りをし、子どもが、自分の中にあるものを整理していけるよう見守るのがいいのかもしれない。
子どもへの考察
・自分の中に何か抱え込んでいるものがあって、それはゲームや散歩などの楽しい行事で紛れるようなものではないのでは。
・自分の中でも整理がつかず、他人に話せるようなものでもない。
・また、同年代の人相手に、自分の抱え込んでいるものを押し殺して、別の話題で楽しく過ごすようなゆとりもない。
・今は自分の中にあるものを整理するのでせいいっぱいなのでは?

(2) 会話が全く成り立たない場合

子どものところへは親の言動に対する子どもの反応(態度、表情など)のみ記入し、同様の考察を試みる。

(3) 特定の人との会話のみ成立している場合

その人の協力を得て、「子ども―協力者」の場面として記録し、協力者も交えて考察を試みる。

内容が伝わっていない場合の分析の留意点5点は日常の家族間の会話でも気を付けてほしい。

日常の中で直接本人が加わっている会話はもちろんのこと、本人にかかわりなくても、会話が聞こえる範囲に本人がいるならば5点に配慮した会話をしてほしいと思っている。

家族がいつも自分にはわけのわからない話をしているのではなく、自分にもわかる話をしていること、家族の中で自分だけが違うのではなく、自分も家族の一員だと感じることが大事だと思う。

5点は我が家をベースにしたものだが、それぞれが記述を続けていくうちに、それぞれの子ども達の「留意点」が見つかってくるのではと思っている。

我が子と向き合うことで、我が子の障害特性を知り、サポートしていく。そして、社会の最も小さな集団である家族が認め受け入れることで、家庭が本人にとって居心地の良い場所になることが大切だと思っている。

期待できる効果

  • 記録を続けていくうちに、子どもの気持ちや欲求を推察できるようになるのではないだろうか。
  • 親は自分たちの言動を顧みることによって、子どもに対する欲求や感情などが次第に整理され、子どもと心を通い合わせるために何をすべきかの糸口が少しずつ見えてくるのではないだろうか。
  • このような記録を障害者支援センター、精神科医等に見せることによって、本人を同行できなくても、親だけが行くよりはより具体的な指導またはアドバイスを受けやすくなる可能性があるのではないだろうか。

補足 分析するときの留意点の詳細

分析する方法は、会話が成立しなかった状況に応じて二つに分かれる。

「もういい」「聞きたくない」「何を言っているかわからない」「頭がごちゃごちゃする」このような言葉で成立しなくなったとき

内容が相手に伝わっていない可能性が高い。この場合、記述された会話の流れを最初から見直す。

資料の5点のような箇所がないかチェックしてみる。

たとえば、指示語に混乱があった場合。

私(花代)
私(花代)

さっきの話、あの人が悪いよね。

子・やよい
子・やよい

「さっき」ってどれくらい前の何の話だろう。

「あの人」ってどの人のことだろう。

我が子は「さっきの話」と「あの人」を考えることに注意が集中し、その後の話の流れが頭に入ってこない。話を聞き取る作業がストップする。

私はそれに気付かず話を進めていく。

私(花代)
私(花代)

だから、いっしょに行く?

我が子は自分に質問されたので急に話の流れに引き戻されるが、「さっきの話」が「どこかへ行く話」になっているのでわからない。

子・やよい
子・やよい

わからない。

今度は私のほうが、我が子が何が「わからない」のかわからない。

こんなふうにお互いにわからないまま会話が続くので、すぐ成り立たなくなる。

このような場合は、内容の大切な部分はわかりやすく伝えられるよう考え直し、再度伝え直す必要が出てくる。

「行きたくない」「ほうっておいてほしい」「いやだ」このような意志表示があって成立しなくなったとき

内容が伝わった上での本人の判断と考えていいので、お互いの感情の食い違いなど考えてみることができる。

相手に強く拒絶されると、こんなにも相手のことを考えているのにどうしてわかってくれないのだろうという気持ちでいっぱいになる。

強く拒絶する相手の気持ちを考えるゆとりがなくなる。

書いて、会話の流れを目に見える形にし、改めて振り返ってみる。客観的に見直していき、相手の気持ちをなんとか考えてみようとするところに分析する価値があると思う。

自分の思いにばかりとらわれず、自分の中に相手を受け入れるスペースを少しずつ作り出していくことができる。



母の資料は以上です。資料に関するご質問は母・花代から返答いたします。

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