4ヶ月だけ勤めていた職場の蔵書にあり、面白そうな本だったので、何気なく読みました。そうしたところ、非常に面白くて「そうだ! その通りだ!」と強く同意できる部分がたくさんありました。私が漠然と思っていることを、私よりも遥かにわかりやすく代弁してくれる本です。私もまた「自分がやらなくてもいい理由」を探す名人なので、「この本があれば私が何かを語る必要はなくなります!」と嬉々として雇い主に報告したのを思い出します。(その頃は自分から情報発信をすることがものすごくイヤだったのです)
読んだばかりの頃は買おうとまでは思わなかったのですが、職場を退職してからも読みたいと思う機会が何度かあったことと、将来ブックカフェを開くときに蔵書にしたい本のひとつだったので、買いました。
この本の魅力
この本には具体的なアイディアが多数あり、「生活に取り入れてみたい」と思わせる魅力に溢れています。何が良いって「敷居が低いところ」です。「日本一意識の低い自己啓発本」を自称されているだけあって、「生きてさえいればOK!」という思想の元に書かれています。スモールステップの人生を提唱する者としては、同様の意見を持つ本が存在することは素直に嬉しいです。敷居が低くて役立ちそうなアイディアは、実践しやすいですからね。
もう一つ共感できるところは、「自分は変わらないから、道具を活用する」というところ。私はかつて自己分析により必死に自分を変え続けてきましたが、その根底は自己否定でした。自分が充分なほど変わって生活が改善し、うつ病も直ったころには、「自分の生活をもっと良くするために、周りの環境を工夫する」という方針に変わってきています。自分を変えようと努力することにも意義はありますが、「変わらない部分は道具でカバー」という自己を否定しない発想は大変素晴らしいものです。
そしてこの本では一般的に短所と言われるところをポジティブに書くのですが、皮肉なのだろうとは思える文章でありながら、開き直って受け入れている雰囲気になっているのです。そういう文体を、私は好ましく思います。たとえば、
我々は「やらない」理由を見出すことに関して熟練の名人であると言っていいでしょう。
発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術 p150
こういうところですね。中には笑えないものもあるのですが、だいたいの記述は、かえって素直に「借金玉さんの言う通りだわ……」と思うのです。自分の中にも皮肉りたい気持ちがある野かもしれません。
この本は「ライフハック」であり「自己啓発書」なので、仕事、人間関係、生活習慣(休養、睡眠)、精神の健康維持(うつを避ける・脱出する方法)について幅広く書かれています。人生を送るのに必須事項であり、発達障害者がつまずきやすい部分ですね。発達障害者や、その傾向を疑っている方には非常におすすめです。
特に役立つと思うところ
五感遮断法(p238)
私がこの本の中で特に有益だと思っているのは、休息手段のひとつである「五感遮断法」です。
私はADHDの傾向は無いと言われていますが、頭の中を四六時中考え事が駆け回っています。忘れ物や紛失などがほとんど起きないので、障害ではないのだろうと思いますが、活動し続ける脳を休ませるにはスキルが必要だとは切実に感じます。
なので、借金玉さんが提唱する休息方法や疲労を避ける方法は非常に有益なのです。借金玉さんはADHD要素の強い方なので、脳のゴチャゴチャとは絶えず戦っていらっしゃるようです。
ホットアイマスクは「休もうと思ったが何かが気になる」という状態から視界を奪ってくれます。目を開けにくい状況になるということだけで、かなり「休める」のです。そのほかにも、今はまだ実践できていませんが、「休息するときの匂い」を決めるのも良さそうだと思っています。匂いと記憶は連動しやすいので、休息時はこれと決めた匂いを必ず使うことで、匂いを嗅いだだけで条件反射的に休息モードに入るということも可能になっていくのではないかと思っています。
プラスして私が使っているのは「寝たまんまヨガ」というアプリです。「体を緊張させてから緩める」というリラックス法で、音声でガイドしてくれるので、アプリで再生したらあとは目を閉じて言われた通りにやるだけです。いつの間にか寝ていることも多々あります。
追記:「寝たまんまヨガ」は使えなくなってしまいました。アプリの代わりとなりうるものを探したものをリンクしておきます。
「バインダーもりもり作戦」で仕事の管理(p48)
もう一つ、職場を辞めてイベントを企画したり実行したりしながら他の仕事も行うようになってから活用し始めたアイディアがあります。それが「仕事をバインダーで管理する」というものです。
私の場合は屋外でハンコをもらう予定がない(それどころか大抵の書類は自宅に安置している)のと、「内容が見えないと何の仕事をやりかけなのかわからず不安感が増大する」ので、ただ紙を閉じられるだけで書類がむき出しのシンプルなクリップボードです。放置してると紙が折れることがありますので、その際には借金玉さんが本書で提案している「一番上にクリアファイルを挟む」という名案を採用したいと思います。
強く共感しているところ
他者を根拠なく肯定することから得る自己肯定(p248)
いつ頃からかはっきり覚えていないのですが、私はできるだけ人に敬意を持って接するように心がけるようになり、できるだけ相手を尊重したいと思うようになりました。おそらくそれは、うつ病が治ってからのことだと思います。
私のそういう部分は、この本で言うと「他人を根拠なく肯定することが、自己肯定感に繋がる」という話に当たると思います。他人を尊重することが、自分を尊重することにも繋がっていると思うのです。他人を大切にすることと、自分を大切にすることは表裏一体なのではないかと、私も今までの人生で思ったのです。
人間関係の見えない通貨の話(p105)
私も昔はあいさつの意義がわかりませんでした。大学院を中退したあと初めて会社勤めをしたときに「普段あいさつをしている相手のほうが話しかけやすい」という実体験をして、初めて「あいさつのメリットはこれだったんだ」と思ったほどです。
今では「笑顔で元気にあいさつするほうが私が好ましいと感じる」ので、笑顔で元気に挨拶するように心がけていますが、疲れて素になると無表情で無愛想になります。本心の私はきっと、いちいち笑顔であいさつなんかしたくないのでしょう。でも、笑顔で元気にあいさつするほうが好ましいと思うのです。そういう価値観に染まったのです。
なので私はあいさつの意義をうまく言語化できません。「そのほうが生きていきやすいから」くらいの理由ですね。ですが、借金玉さんは「見えない通貨」という例えで非常にわかりやすく言語化しています。定型発達文化に馴染めなくて苦しんでいる方には、この本が何かの答えをくれるのではないかと思います。
この本を読んでいて生じた唯一の疑問
この本は全ページおすすめと言いたいくらいどこもかしこもおすすめできるのですが、読んでいて疑問に思ったことがひとつだけあります。
それは「なぜ、生きていなければいけないのか?」です。
私は今でこそうつ病が治っていますが、仕事の内容次第でいくらでも再発しうることを2019年に4ヶ月間会社勤めして実感しました。また、うつ病と診断されたのは21歳の大学4年生のときですが、それまでの人生でもずっと抑うつ状態だったと思いますし、小学生のころを思い出すと、すでにその頃の時点でうつ病だったのではないかと思います。病院にかからなかったから診断がつかなかっただけです。
発達障害があるからこそ「うつ」とは離れられないのですが、そういう人生を送っていて思うのは、「なんでわざわざ生きているのだろうか」ということです。今の自分を思うと、あまり積極的に生きているとは思えないのですね。死にたいとは別に思っていないけれど、「自然に生きている」という感じなのです。うつ病の頃の自分は死にたい気持ちと戦いながらも必死に生きていたので、そのころの必死さを思うと、今の自分は生きていると言えるのかよくわからないのです。人生の中で楽しいことを見つけ、達成したい目標ができ、いろんなことに挑戦していますが、そこに必死さがない。それがいいことなのか、悪いことなのか、よくわからないのです。
とはいえ、自分が「もうちょっと生きてみよう」と思うようになるとは、うつ病が治る前の自分は全く思っていませんでした。「人生が楽しい」と思う日が来るとも予想していませんでした。人生とは思ってもみないことが起きるものです。先のことなんてわかりません。この先もずっと不幸だとは決まっていないのです。
何を言われたって、死にたいときには死にたいのですが、早まって死んでしまうのはもったいないんじゃないかな……と最近の私は思うようになりました。
そう思いながらも、生きていなければならない理由はわからないのですが。そこが本当にわからないので、「生きてさえいればOK!」という発想の本書に今一つ賛同しきれないのですが……それでも具体的なアイディアがあり、読みやすく面白い文章の本書、全ページおすすめです。
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